第三十七夜 子ども俳句 小学校の俳句の授業

 小学校4年生だった頃を思い出してみるともう70年近く前のことになるが、担任の久田先生は、俳句を教えてくださったことがあった。五七五と指折り数えることも、そうしながら意味のある十七文字の言葉にしてゆくことも、簡単ではなかった。
「明日までに俳句を一つ作ってくるのだよ!」
「お父さんに教えてもらってごらん!」
と、ついには宿題となった。仕事から帰った父に、すぐさま纏わりついて俳句をおねだりした。父は優しかったし俳句も好きだったが、俳句は自分で考えるものだよ、と言いながら食卓のお酒に向かった。
 〈玄関へ父のあしおと秋の夜〉・・このような俳句をつくった記憶がある。
「大好きなお父さんだから、重石さんは足音でわかったんだね!」と、久田先生は言ってくださった。

 その後、出版社蝸牛社を設立した夫の荒木清は俳句結社「炎環」主宰の石寒太さんとの出逢いがあったことで、『蝸牛俳句文庫』」シリーズ、『秀句350選』シリーズなど俳句関係に多く携わってきた。蝸牛社の『子ども俳句歳時記』は、石寒太先生、大分県「蕗」主宰の倉田紘文先生や炎天寺住職・一茶まつり・全国小中学生俳句大会主宰の吉野孟彦先生をはじめ多くの先生方のお力添えによって生まれた一書で、版を重ねることができた。

■子どもの句、蝸牛社刊『子ども俳句歳時記』より

 1・とうめいにんげんわたしのとなりのぶらんこに  小1 さとうゆきこ

 作者が小学一年生だと知って驚いた。まず「えっ? ブランコに乗っているのが、とうめいにんげん? いったい何者だ?」と、思った。つぎに「だれも乗っていないのに・・ブランコがゆれてる? いったいなぜ?」と、考えた。
 「もういないけど! さっきまで男の子が漕いでいたっけ・・!」
 男の子がブランコを下りて走り去ったばかりなのだろう・・揺れがのこっていたのだ。
 まだ揺れがのこっていたから、でもブランコを漕いでいる人に気づかなかったから・・ゆきこさんは「とうめいにんげん」がとなりのブランコにいるにちがいない」と思った。
 
 2・かげろうだみちは大きなフライパン  小2 山口泰史 

 うららかな春の日、地面の上がゆらゆらしているように見えるときがある。タロくんはそばで見ているから知っているけれど、お母さんはお料理のはじめにフライパンをあたためて、ゆらゆらが見えたらすぐに油をいれる。
 「大きなフライパン」の道を通過してゆく車はふわふわと走っているみたい。学校帰りの友だちも、かげろうの中ではねているみたい。
 
■大人の句、『名句もかなわない子ども俳句 170選』より
 
 1・ふらここにきりこきりこときんぽうげ  鈴木詮子 すずき・せんし
 
 子どもはぶらんこが大好きです。並んで待って、やっと順番がきて漕ぎはじめました。待っているときも「きりこきりこ」というブランコの音は聞こえていますが、自分が漕いでいるときの気分は最高です。漕ぐたびに友だちよりもグンと高いところに行けるのです。上から眺めるきんぽうげのオレンジ色のうつくしいこと・・。

 2・踏んだかもしれぬ四つ葉のクローバー  あらきみほ
 (ふんだかもしれぬ よつばの クローバー)

 「四つ葉を見つけると幸せになれる・・。」
 ノンちゃんはお母さんと土手まで犬の散歩にでかけました。広い斜面いちめんのクローバー。綱をはずしてもらった愛犬のオペラは自由へ一目散。ノンちゃんはクローバーの花で王冠を編んでいます。
 まだ一度も四つ葉を見つけたことがないから、「踏んでしまったのかしら?」と、お母さん・・。
 クローバーの三つ葉は「信仰、希望、愛」、四つ目の葉には「幸運」の意味がある。