第四十一夜 村上春樹の『街とその不確かな壁』

 村上春樹の『街とその不確かな壁』を読み終えた。本文とあとがきを含めて661頁という久しぶりの大作は読み応えがあった。本著を紹介してくれたのは中学時代以来の親友の上田祥子さん。当時は橋本祥子さんであったが、上田祥子さんで通そう。新宿区の西戸山第二中学校、青山学院高等部、青山学院大学の英米文学科の10年間を共にした私たちは、卒業後に私は長崎で4年間を過ごした間も含め、その間もその後もずっと親友だ!
 覚えているシーンがある。長崎に向かう私を、ひとり上田さんは東京駅に見送ってくれた。なぜだろう。思い出すのは、さよならを言う上田さんの顔ではなくてその後ろ姿であった。
 4年後に夫とともに長崎から東京へ戻った私は、上田さんが結婚されて、旧友たちに紹介するパーティに出席することができた。

 村上春樹の『ノルウェイの森』を教えてくれたのも上田さん。長編の『街とその不確かな壁』を読み終えた私は、「ヤッタ~!」というメールを送った。 願わくば、次の俳句も詠みましたので、ご覧になってくださいますことを!

■『街とその不確かな壁』から「壁」の句を詠んでみた。

  わが壁も春樹の壁も黒はえて  みほ
 (わがかべも はるきのかべも くろはえて)

 実を申し上げると、今はまだ「壁って何!」という思いから抜けきっていない! この6月に吹く、生暖かい・・湿り気をまき散らす「黒南風」に絡み取られてゆくかのごとくに・・そして私の周りを取り囲んでいる目には見えない何ものかの腕から、どうあがいても抜け切ることが出来ないかのように!
 この『街とその不確かな壁』を読んでいる間中、人は何かしらそうした思いに囚われて生きているのかもしれない・・私にもあるあると感じていた。 

  黒南風や春樹の壁のどんみりと  みほ
 (くろはえや はるきのかべの どんみりと)

 不確かな壁は、自覚をすれば、誰の周りにも見えてくるのかしら・・壁はあるに違いないと思った。自分を囲む壁は、なにを・・どう自覚したときに見えて来るのだろう? 又どうしたときに消えてしまうのだろう? 村上春樹の小説の「壁」は、人間が自覚すれば誰にもあるものだという。
 村上春樹の『街とその不確かな壁』に出会えてよかった・・読み終えることができて良かった・・若かった昔ではなく、喜寿を越えた「今」の歳で良かった!

  沈黙に打つ句読点木下闇  みほ
 (ちんもくにうつ くとうてん こしたやみ)

 『街とその不確かな壁』の感想を綴りながら、句点も読点も打ってきた。どんなささやかな一文であっても、句読点は不可欠だなあと思いながら。
 さて、本を閉じて・・目の届く位置にしまっておこう!