第百九十夜 深見けん二の「春蟬」の句

  春蟬の声一山をはみ出せる 『日月』
  
 平成十五年五月十八日、けん二先生の句碑が伊香保温泉の「文学の小径」に誕生した。前日に伊香保入りされていたけん二先生ご一家はこの日、私たち「花鳥来」のメンバーを出迎えてくださった。伊香保へ行くのは皆ばらばらであり、私は車で関越道を走って、かなり高所にある伊香保温泉の「文学の小径」まで直行した。

 もう17年前のことになるので細かいことは朧であるが、当時の「花鳥来」51号には幹事の山田閠子さんによる当日の記録によれば、天気予報に反して、見事な新樹晴れであったと書かれている。
 句碑開きは、予定通り午後一時半に行われた。辺りから老鶯がそれはそれは声高らかに鳴き、式典の合図のファンファーレのようであった。
 この句碑は、NHK学園のご縁により伊香保刊行協会の「俳句の町いかほ」事業の一環として建てて頂いたもので、けん二先生の第一句碑となった。句碑のかたちは、まさに作品に相応しく山型をした石である。
 
 掲句をみてみよう。
 
 この作品は、平成13年の作で、ふらんす堂刊による第六句集『日月』に入集されている。
 「春蟬」は、他の蟬に先駆けて鳴き始めるので春蟬ともいうが、夏の季題である。やや軽い調子でシャンシャンと松林などで鳴き出すのは5月頃である。
 けん二先生は、「声一山(こえいっさん)をはみだせる」と詠んだ。
 どれほどの山の高さであったとしても、溢れんばかりの蟬の鳴き声は凄まじい音量であったと想像できる。さらに、中七下五の畳み掛けるような調べの勢いのすばらしさがあり、句すがたの美しさのある作品である。
 
 当日の祝賀会で「花鳥来」代表として祝辞を述べた加治幸福さんと、会員の新井秋鴨さんとあらきみほの祝句である。当日の特色ある景を詠んだ句であるので紹介させていただく。
 
 1 句碑除幕はや香水につつまるる  新井秋鴨
   をだまきの咲き添ふことも山の句碑
 
 2 日傘たたみ序幕の句碑にご挨拶  加治幸福
   老鶯や句碑は伊香保の山かたち
 
 3 薄暑光しづかに句碑に纏ひ初む  あらきみほ
   句碑あらば燕のやうに又訪はむ

 1の、秋鴨さんの「はや香水につつまるる」は、女性会員たちも久々の晴れ姿で参集しているので、きっと幽かな香水に気づかれたのであろう。
 2の、幸福さんの一句目の「日傘たたみ」は当日の新樹晴れをいい止めている。二句目は、山のかたちをした句碑をいい止め、老鶯の鳴き声が句碑除幕の晴れの舞台を鼓舞してくれた。
 3の、あらきみほの二句目が、けん二選に入ったのではないだろうか。