2ヶ月の入院俳句

 2018年10月30日、前日に大腿骨頸部骨折と診断され、守谷第一病院へ入院した。具合の悪い箇所は足だから考えることはできる。お産以来半世紀近く病院とは縁のなかった私には、何もかもが目新しい貴重な日々となるだろうと思って、歳時記やノートを持ち込んで、俳句に詠んでおくことにした。

  大腿骨頸部骨折

10月20日
骨折てふ天の鼓や秋暮るる
晩秋や水仕なき日の忽と来し

10月30日
美しき十一月を入院す 
白露や犬の目を見て入院す
ハロウィーン葉書を挟む虚子俳話

11月1日 手術
麻酔覚め霧のうするる手術室
麻酔覚む狭霧のなかの手術台
霧のごとかこむ安堵の声の中
金輪際うごかぬ朝の濃霧かな
霧の川見えなきものの流れをり

11月3日 手術の翌日からリハビリが始まる
病院てふ城や濃霧に閉ざされて
もも色のカーテンをゆく秋の雲
病む窓に野山の錦けふも晴れ
筋雲のくれなゐ釣瓶落しかな
やや寒く目覚む五〇七号室

 11月10日~11月29日 守谷第一病院
冬に入るわが筋力を一喝し
小さき創痕たんぽぽの帰り花
  創痕のロイコスリップが徐々に剥落
冬銀河ならぶ七つの絆創膏
病棟に茨城訛り冬うらら
鳩が鳩追ひかけてゐる小六月
穂絮とぶ冬の窓辺の無言劇
すぐ解くハートのかたち冬の雲
談話室スマホ指南の娘のマスク
車椅子こきこき冴ゆる夜の廊下
頑丈な扉の向かう冬の月
もみの木の枝に凍蝶ガレの蝶
寒暁や二峰まします筑波山
太陽の白き焔や冬の明け
赫々と雲のさざなみ日短か

11月30日 リハビリテーション病院へ転院
冬の真夜ひとの寝息の中にをり
底冷えや流星群を見し話
かじかみて試歩の右足左足
一本の冬薔薇天の引き締まり
中庭や渦の木枯し逃げ場なく
小鳥にも蝶にもなりて木の葉飛ぶ
はなびらの厚く冷たし冬椿
素つぴんをとほす冬木となるために
冬薔薇や色をのこして枯れ残り
夢に見し二足歩行や冬の虹
  歩行訓練に用いた体重計
体重計よさらばメリークリスマス

12月20日 退院
いざ退院さあ寒紅をつけませう
犬のゐる我が家しみじみ年の夜