第七百七十三夜 猿山木魂の「成人の日」の句

 成人の日は、1948年公布・施行の祝日法によって制定された。制定から1999年までは毎年1月15日だった。成人の日を1月15日としたのは、この日が小正月であり、かつて元服の儀が小正月に行われていたことによるといわれている。2000年から1月第2月曜日、つまり、その年の1月8日から14日までのうち月曜日に該当する日に変更された。
 2022年の成人の日は、第2月曜日である10日の今日である。祝日である。
 
 私が成人式を迎えたのは当時大学生で、東京都民であり練馬区民であったが、区から成人の日に何かしてもらった記憶はない。しかし参加しなかっただけかもしれない。誰もが着物を着ることにも反発した私だったが、真っ赤な絹のワンピースとベージュの絹のコートを仕立ててもらった。
 成人の日は赤いワンピースを着て、同じESSのクラブに所属している親友のムチョと、ムチョのお姉さんのトシコ・ムトーさんと待ち合わせたホテルのレストランへ出かけた。
 
 ムチョは、エメラルドグリーンのジョーゼットの柔らかなワンピースであった。お姉さんのトシコ・ムトーさんは、日本人離れした迫力のグラマラスな肢体を黄金色のワンピースで包んでいた。トシコ・ムトーさんは、女性雑誌に「小さな恋人」という漫画を連載し、漫画本にもなった超売れっ子の漫画家であった。
 ムチョは、お姉さんから成人のお祝いに、一粒の輝くダイヤのペンダントをプレゼントされた。
 
 20歳になったばかりの私は、大人の女性の貫禄ある美しい仕草に圧倒されつつ、豪華なコース料理を御馳走になり、素敵な成人の日の時間が流れた。
 
 今宵は、「成人の日」の作品を見てみよう。

■1句目

  よそほひて成人の日の眉にほふ  猿山木魂 
 (よそおいて せいじんのひの まゆにおう) さるやま・こだま 

 街の美容室からは、振袖を着て、髪を結い上げて、お化粧をしてもらって、真っ白な毛皮のストール姿の成人の日を迎えた女性が次々に出てくる。
 下五の「眉にほふ」とは、美容室で眉を剪りそろえてもらって、匂うばかりに美しくなったなあということであろう。

■2句目

  色あふれ成人の日の昇降機  斎藤道子 
 (いろあふれ せいじんのひの しょうこうき) さいとう・みちこ

 「昇降機」は、今ではあまり使わなくなった言葉であるが、エレベーターのこと。成人の日の、高層ビルのエレベーターの中は、着飾った着物やドレスやお化粧の口紅などで、とりどりの色彩に溢れんばかりである。

■3句目

  足袋きよく成人の日の父たらむ  能村登四郎 
 (たびきよく せいじんのひの ちちたらむ) のむら・としろう

 俳人能村登四郎は、市立市川学園の教員でもあった。家庭でも3人の子の父であったが、大勢の生徒に対しても父のような気持ちでいたのではないだろうか。
 掲句の「足袋きよく」から、成人の日を迎えた子にとっても、また卒業した生徒たちにとっても、つねに「父たらむ」の精神を貫いて生きた方のように見受ける。

 成人式は成年祭ともいわれる。1948年に施行の祝日法によって制定され、1月15日であった成人の日は、2000年からは1月の第2月曜日になっていた。が、また内容の1部が変わり、成年年齢が、2022年4月から、現行の20歳から18歳に引き下げられるという。

 今宵は、『新歳時記』平井照敏編から「成人の日」の句を紹介させて頂いた。