第三夜 横山白虹の「ラグビー」の句

  ラガー等のそのかちうたのみじかけれ  横山白虹

 四年に一回のラグビーワールドカップが、今年(二〇一九年)の九月二十から十一月二日まで日本で開催された。スポーツ番組を夢中になってテレビに齧りつくこともなかった私も、日を追うごとに、日本チームの快進撃に「にわかファン」の一人になってしまった。十日前に一ヶ月半に及んだ全試合の決勝戦も終わっているが、ラグビーの俳句は是非この「千夜一句」に加えなければならない。
 
 横山白虹(はっこう)は、1898年東京に生まれる。俳人、医師。1927年より「天の川」編集長。1937年「自鳴鐘」(とけい)を創刊、主宰。炭鉱町の病院に勤務していた中で詠んだ代表句「よろけみやあの世の螢手にともす」などがある。社会性のある生活俳句の新興俳句代表作家。
 
 この作品は、「昭和九年二月十八日大阪花園に於て全日本對全濠州ラグビー試合を見る」と注記のある「ラグビー」と題した五句連作の一句。「ラガー」とは、ラグビー選手のことでラガーマンと同じ。冬の季題である。掲句の「かちうた」は、ノーサイドの笛が鳴った後の勝者たちは円陣を組み、拳を突き合わせて「オー!」くらいの「みじかさ」の歓喜の声である。敗者の健闘を讃えながら勝利を誇るウォークライという凱歌だ。それにしても80分の間、ぶつかり合いの激しい闘いを終えたラガーマンたちの、喜びようはじつにさっぱりしている。
 
 現在はサッカーの方が人気があるが、かつてはラグビーは熱狂的なファンが多かった。ルールを知らない私が観ると、グランドの男たちはいつもおしくらまんじゅうのようであった。しかし今回の日本チームは強い。四つのプールに分かれてトーナメントが始まると、プールAの日本は四戦連勝をして、一次予選を突破してベスト8に入った。夫に煩いと言われながら、毎回のようにルールの質問をしているうちに、アナウンサーの言葉もわかるようになってきた。次の句も見てみよう。
 
  ラグビーボールぶるぶる青空をまはる  正木ゆう子
  ラガーらの雄しべのごとく円となる  加藤三七子
 
 一句目、キックしたとき、楕円形のボールはくるくる回るのではなく、微妙な動きで回りながら飛んでいくから「ぶるぶる」となのだろう。
 二句目、ラックとかモールとかアナウンサーは説明をしていたが、「円」は、スクラムのおしくらまんじゅうのことで、「雄しべのごとく」と表現した。まさに男たちのでっかい雄しべのようにも見える。