第二百三十二夜 加藤楸邨の「爽やか」の句

 平成14年、金子兜太監修・あらきみほ編著の『名句もかなわない 子ども俳句170選』が中経出版社から刊行された。それ以前に、蝸牛社から『子ども俳句歳時記』『小学生の俳句歳時記』を金子兜太監修の下に出版している。
 子ども俳句は、現在、一つの俳句のジャンルを形成している。もう50年以上になるが、「日本学生俳句協会」「NHK学園全国ジュニア俳句大会」「芭蕉祭献詠全国俳句大会」「日本童話祭全国子供俳句大会」、大分県の「豊っ子俳壇」「高校生俳句甲子園」など、既成の俳壇とはちがった勢いを見せていて、こうした状況下で、出版企画は生まれた。
 
 『名句もかなわない 子ども俳句170選』は、子ども俳句の名句と思う作品と大人の名句を並べ、さらに、あらきみほの子ども向けの短文をシンクロナイズさせてみた。
 基本は、四季折々の自然の出来事がいかに生き生きと詠まれているか、作品から感じてもらえたらと思って選んだ句々である。

 今宵は、9月もそろそろ半ば、本著から「爽やか(さわやか)」の季語の作品を考えてみようと思う。

  爽やかに流るる雲へ歩くなり 加藤楸邨

 小学5年生の吉川由香さんと同じページには、俳句界の大御所であった加藤楸邨の句が並ぶ。本著の生まれる9年前の平成5年に、88歳で亡くなられている。
 晩年の句に〈天の川わたるお多福豆一列〉という楽しい作品がある。
 
 掲句の「爽やかに流れる雲」は、青空高くに白い雲や筋雲がつぎつぎと流れてゆく、まさに秋雲の動きであろう。その雲の流れとともに楸邨は歩いてゆく。
 楸邨の穏やかな詠み振りの作品をどこから見つけたのか、今、思い出すこともできないし、載っている句集を探し出すこともできない。
 だが作品を口ずさみながら、大空を流れてゆく秋の雲とともにゆったりと歩いてゆくような清々しい心持ちになる。それが季語「爽やか」の本意である。

  おはじきの音さわやかに仲直り 小5 吉川由香
  
 下段に、あらきみほの短文がある。
 「仲直りすることはむつかしいことです。ノンちゃんも最初はぷんぷんおこっていましたが、お家に帰ってご飯を食べるころには、もうおこってはいませんでした。
 ちょっとくやしいけれど、自分から先に「ごめんなさい」といおうと決心して寝ました。学校につくと、ノンちゃんも友だちも、あやまる前ににっこりしました。」
 
 掲句は、その日の休み時間に早速、仲直りしたノンちゃんと友だちは「おはじき」遊びをしたのだろう。おはじきのガラスの、代わり番こに打ち合う音が、さわやかなリズムとなって響いてくるようだ。
 「さわやか」とは、秋になって、熱気が去り、水分を含んでいないからっとした気候からくるもので、気持が晴れやかでさっぱりしているさま、心がすがすがしいさま、の意味である。