第三百六夜 小枝恵美子の「オランウータン」の句

 今晩、友人の友人が企画制作した「オランウータン孤児 ”いのちの学校”」というNHKの報道番組を観た。
 密猟や乱獲のため母親を奪われて置き去りになったオランウータンの孤児たちは、そのまま放っておけば死んでしまう。オランウータンを絶滅の危機から救うこと、そのために、幼子のオランウータンが森で生きぬく術を母親の代わりに人間のスタッフが教育を施し、森へ返すという大作戦が”いのちの学校”だ。その学校は、インドネシアのカリマンタン島の広大な森である。
 一頭の育児期間は8年。200頭のオランウータンを「森の人」として育てるスタッフは、倍の400人が要る。このプロジェクトが始まって30年経つという。
 
 この番組を観ながら、地球に棲む生き物たちのバランスを壊さないことも、地球を守る一つなのだ、ということが朧げながら理解できたように思う。
 地球上の、いかなる命をも置き去りにしない、というポリシーを感じた。
 
 日本では、3ヶ月前に北海道の円山動物園でオランウータンの赤ちゃんが生まれ、「令斗」くんと名付けられた赤ちゃんオランウータンの可愛い映像がたびたび流れた。オランウータンの子育てを見ながら、わが子育てを思い出していた。
 
 子どもたちにせがまれて、小学生のころ上野動物園のパンダを見に行った。私の母も一緒に行った。
 上野動物園ではパンダの前はもの凄い人だかりで、わあーっと思った。子どもたちは誘導に従って動いているのに、私は、そおっと抜けて隣のゴリラの檻へ行った。ゴリラは、岩の一番上に座って睥睨しているようであった。その時の、ゴリラの超然とした堂々とした風貌に、私はすっかり惚れ込んだ。
 昔、理科の時間だったか歴史の時間だったか、オランウータンとゴリラとチンパンジーは「ヒト科」であり人間の遠い先祖であると習っていたが、三者の違いがよくわからない。
 番組の始まる前に調べた。
 
 1・オランウータンとは、ヒト科オランウータン属(Pongo)。 語源は、「orang(人) hutan(森) = 森の人」である。アジアの熱帯のインドネシア(スマトラ島北部、ボルネオ島)、マレーシア(ボルネオ島)に生息。群れを作らず孤独を愛する性格。
 2・ゴリラは、霊長目ヒト科ゴリラ属(ゴリラぞく、Gorilla)。カメルーンや中央アフリカ、コンゴ、赤道ギニア、ガボン、アンゴラなどの熱帯雨林に生息。ゴリラは繁殖期を除き性格は穏やかな平和主義。 見た目とは違ってデリケートだという。
 3・チンパンジー(Pan troglodytes)は、哺乳綱霊長目ヒト科チンパンジー属に分類される類人猿。赤道アフリカ各地にあるさまざまな森林に生息。勝ちにこだわるリーダータイプ。

 ブログ「千夜千句」は、俳句の紹介をしている。
 
 今宵は、オランウータンの俳句を紹介してみよう。
 
  オランウータン仏陀の顔して今朝の秋 『ベイサイド』

 作者の小枝恵美子さんは、坪内稔典さんの「船団」に所属した方で、蝸牛社から、「七つの帆」シリーズ『ポケット』という句集を出版された。このブログでも第五十六夜に登場している。
 掲句は、オランウータンの顔がなんだか仏陀の顔に似ているなあと、立秋の朝、作者はふっと思った。そう言えば、ゴリラよりもチンパンジーよりも、オランウータンは穏やかな顔つきをしている。