第二十九夜 スーザン・ハイアンの「snowman(雪だるま)」の句

The friendly snowman
Enjoying the sun`s heat
Feeling the mistake
Susanne Hyun, Grade 6, Canada
 
  人のいい雪ダルマが
  気分よく日向ぼっこをしている
  しまったと思いながら。
スーザン・ハイアン(六年生、カナダ)

 佐藤和夫の著書『海を越えたハイク』から一句紹介する。佐藤和夫氏は、早稲田大学教授で米国カリフォルニア州立大学研究員として滞米中に、初めてHAIKUと出会い、以後、外国語俳句の比較研究や日本への紹介などに取り組んできた方である。
 掲句は、日本語訳が句意を述べているので、ここでは鑑賞をしてみよう。
 
 雪が降れば子どもたちは直ぐに雪だるまを作る。作っているのは子どもの方だが、出来上がれば人格を備えた「The snowman(雪だるま)である。  「friendly(人のいい)」雪だるまは、子どもたちがその場からいなくなっても、ずっとその場に残って、「the sun`s heat(太陽の暖かさ=日向ぼっこ)」をエンジョイしている。すると、雪だるまは一つの過ちに気づいた。それが「the mistake(しまった)」である。
 雪だるまにとってのミステイクとは・・雪だから、太陽の熱で溶け出したことである。
 それが、人のいい雪だるまの本質だと、運命だったのだと、スーザンさんは言いたかったのだろうか。

 外国語で作るハイク(HAIKU)は、俳句の五・七・五を五音節・七音節・五音節として、それぞれのかたまりの詩句とみなした、三行書き、十七音節(シラブル)の詩をハイクというのである。
 明治時代に俳句は、イギリス人のバジル・ホール・チェンバレン、ラフカディオ・ハーン(日本名は小泉八雲)、フランス人のポール・ルイ・クーシュー等の日本に来ていた学者たちによって自国に伝えられた。小泉八雲(ハーン)の俳句の翻訳はアメリカの詩人に影響を与え、「ハイク」として普及していった。
 第二次大戦後に日本文学研究者ドナルド・キーン、禅の鈴木大拙も俳句の普及に貢献した。一九六〇年代から小学校児童に英語でハイクを書かせる運動がアメリカで起こり、これが、世界各国に再びハイクを波及させる契機となった。
 
 アメリカの小学校の教科書の教科書に出ているハイクの規則は次の通り。
「日本のハイクには次のような特徴があるのをおぼえましょう。
  (『言語とその使い方』スコット・フォーズマン社)
 1・ハイクには韻(ライム)はありません。
 2・それぞれの詩はイメージあるいは印象をあらわします。
 3・題材は自然で、しばしば季節的なものです。
 4・それぞれの詩は三行です。
 5・各行は五・七・五音節です。
 あなたは日本風なハイクがかけますか。」
   
 我々日本人でも、五・七・五と指折り数えながら、苦吟をするが、アメリカやイギリスの小学生たちが、同じように音節(シラブル)を数えながらハイクをつくっているのを想像するのは何とも可愛らしい。「季語」とは言わなくても、「かたつむり」「雪」「春風」「霧」など自然を詠む(季節的)という項目3の特徴が作品に籠められている。