アポロ11号は1969年7月16日にケネディ宇宙センターから打ち上げられた。アポロ計画で5番目の有人ミッションで、人類最初の有人月着陸ミッション。アームストロング船長は、アポロの着陸地点を「静かの海基地(Tranquility Base)と命名した。
月面着陸は、4日後の7月20日であった。
アポロ11号月面着陸
「そろそろ出てもいいかな?」アームストロングが14分も月面を歩くのを見つめていたというのに、オルドリンの声には熱っぽさのかけらも感じられなかった。いよいよ彼の出番だ。(略)ついで、いつもどおりの几帳面さで自分の動きを逐一地球に説明しながら、はしごを降りた。しかし、フットパッドに降り立ち、あたりを見回したとき、彼は一瞬、言葉を失った。目の前に広がるのは無秩序の世界だ、にもかかわらず、精緻さがあった。、とのちに彼は語っている。それは岩石と砂の描く精緻さだった。それを描写する言葉の組み合わせがほかにもあったにちがいない。しかしオルドリンはこうつぶやくことしかできなかった。「美しい眺めだ!」
アームストロングも同調した。「ちょっとしたもんだろ? 荘厳な眺めだ」それを聞いたオルドリンは、ふいに探していた言葉を思いついた。「荘厳なる荒涼」両手ではしごをつかんで、フットパッドから両足を振り出し、オルドリンは月面に降り立った。(アンドルー・チェイキン著『人類、月に立つ 上』亀井よし子訳)
今宵は、季題「月下美人」の作品をみてみよう。
■月下美人:または女王花とも
平成17年の8月、小学校からの長い友人の片山和子宅で月下美人の花の一部始終を見せていただいた。薄暗くなってからご馳走を頂きながら「今宵は最後まで見届けます!」と、片山夫婦と私たち夫婦は心を決めた。
蕾はいくつか出来ていた。驚いたのは、サボテン科の月下美人の葉は肉厚で、蕾は葉の縁から下向きに垂れて伸びてきた。暫くすると伸びてきた蕾の付いた茎は、つぎに弧を描くように上向きに伸びてきたではないか。やがて萼が伸び、蕾は白く膨らんできた。
いよいよ花が開くと思うと気が気ではない。白い大きな花はゆっくりゆっくりと咲きはじめた。じっと見ていても膨らむ様子は目には見えない。完璧な花となったのは2時間を過ぎたころで香も絶頂となっていた。
友人片山和子宅にて 2句
1・するすると伸びて月下美人は焔 あらきみほ 「花鳥来」
(するすると のびて げっかびじんはほ)
2・月下美人の闇濡れはじむ長き蕊 あらきみほ 「花鳥来」
(げっかびじんのやみ ぬれはじむ ながきしべ)
1句目、月下美人の咲き方は、するすると茎が伸び、雄蕊や雌蕊も長く突き出したような花の勢いがある。それは白い焔のようにも思われた。
2句目、闇夜に咲いたばかりの月下美人の花びらも、雌蕊をかこむ雄蕊も、真ん中にぐっと突き出した花柱の雌蕊も、まだどこか濡れているようであった。
その夜は、咲き初めから月下美人を堪能した。そろそろお暇をと言い出しかけると、和子さんは、「これからよ。これから萎むまでを見て、花が萎んだ月下美人を一品にして戴きましょうよ!」と、更なる誘いがあった。
結局、萎んだ姿も美しい月下美人は、包んでもらって、夜明け間近の月が西空へ沈むころの帰宅となった。
3・四時間をもてはやされて女王花 千原叡子 『ホトトギス 新歳時記』
(よじかんを もてはやされて じょうおうか) ちはら・えいこ
句意は、月下美人は女王花とも言われる。一夜をそこに集う人たちを魅了し、釘付けにして、「なんて美しいのでしょう!」と、4時間という短いようで長い時間を褒めそやされる花は、まさに「女王花」と呼ばれるに相応しい。
この作品は「四時間」という刻の長さを正確に詠み込んでいることで、月下美人という花の生命の短さゆえの儚さと、儚い故の美しさが見えてくるのではないだろうか。「女王花」は「じょうおうか」とも「じょおうか」とも読むことができる。
今宵は、アポロ11号月面着陸の日であったので、「月」の入った「月下美人」の句を紹介してみた。