第七百二十夜 高野素十の「柊の花)の句

   「落葉ごっこ」           あらきみほ          

 落葉を蹴って、おもいっきり落葉の音をたてながら、子どもたちは駈けてゆきました。落葉のなかにころがって、埋もれてみました。そのうち、女の子は落葉を両腕いっぱいにかかえると、空へ向けて放りあげはじめました。
 「あきーっ! あきーっ!」と、いいながら――。
 すると、青い空から落葉がつぎつぎにふってきました。
 お姉ちゃんのすることは、なんでもいちばん!
 男の子も、すぐさままねをはじめました。
 「あきーっ! あきーっ!」
 犬も、なんだかうれしくなりました。
 母のわたしも、なかまにはいりました。
 晩秋の公園の雑木林では、いつまでも、落葉ごっこはつづいています。
 
     (あらきみほ著『名句もかなわない子ども俳句170選』まえがきより)

 今宵は、「柊の花」の作品をみてみよう。

■1句目

  柊の花一本の香かな  高野素十 『初鴉』
 (ひいらぎの はないっぽんの かおりかな) たかの・すじゅう

 句意は、一本の柊の花の木の、葉腋に固まって咲く白い小花から、これほどの香りがすることを知りましたよ、となろうか。

 当時80歳であった母との、毎朝の散歩コースの住宅地に一本の柊の花を咲かせている垣根があった。柊の花を植物図鑑の中でなく実物を見たのは初めて! 光沢のある葉は、鋸の歯のようなぎざぎざがあり、その先に棘がある。小さな白い花が葉腋に固まって咲いている。その小花に顔を近づけると、ツンとくる芳香がした。

 初冬の頃、その住宅地を通りかかる度に、柊の花の垣根までゆくが、光沢のある棘の葉を見るだけで花にはお目にかかっていない。
 柊の花は、その芳香とともに、小柄であった母の姿を思い出す。

■2句目

  柊の花人知れず人知れず  田畑美穂女 『ホトトギス新歳時記』 
 (ひいらぎのはな ひとしれず ひとしれず) たばた・みほじょ

 「人知れず人知れず」とは、柊の花の咲く姿である。柊の花は、棘があり固くぎざぎざで光沢のある厚い葉の間の葉腋に、固まって咲いている。

 句意は、柊の花は見えにくいとも言えるし、だれにも知られないように咲いている、とも言えそうな花の咲き方なのですよ、となろうか。

■3句目

  柊の花にかぶせて茶巾干す  阿部みどり女 『現代俳句歳時記』角川春樹編
 (ひいらぎの はなにかぶせて ちゃきんほす) あべ・みどりじょ

 句意は、柊の花の木に、かぶせるようにして布巾を干しましたよ、となろうか。
 
 1句目で、柊の花の光沢のある葉は、鋸の歯のようなぎざぎざがあり、その先に棘がある、と説明をしているように、薄い布巾を柊の花の上にかぶせるように置いて、干したとしても、柊のぎざぎざの棘が布巾に刺さるので、乾いたあと、風に飛ばされるようなことはない。
 
 阿部みどり女は、大正時代に長谷川かな女らと「ホトトギス」婦人句会を結成した、女性俳句の魁の1人。「駒草」を主宰した人物である。
 だが、主婦でもある阿部みどり女さんは、柊の花の特徴も布巾の特徴もよくご存知であった。