第七百二十一夜 瀧井孝作の「柿落葉」の句

   石          堀口大學
 
       ――杵淵彦太郎に
       君、石を愛し給へば
       
  石は黙つてものを言ふ
  直かに心にものを言ふ。
  
  雨には濡れて日に乾き
  石は百年易らない。
  
  流れる水にさからつて
  石は千年動かない。         『堀口大學全集 第1巻』小沢書店
  
 ※堀口大學は、東京生まれの詩人、外交官の父の堀口九萬一(ほりぐち・くまいち)の任地に従い、ベルギー、スペイン、スイス、ブラジル、ルーマニアと、青春期を日本と海外の間を往復して過ごす。彼の斬新な訳文は、多大な影響を与えた。
  
 今宵は、「柿落葉」の作品を紹介しよう。
  
■1句目

  柿落葉地に任せて美しき  瀧井孝作 『瀧井孝作全集』
 (かきおちば つちにまかせて うつくしき) たきい・こうさく

 柿の木を一本植えている家は案外に多く見かける。大きい柿の木は枝が塀を越えて落葉していることがあるが、柿落葉は赤や黄や錆色など深々とした色彩が美しい。
 母が好きだったからか、私も柿落葉を見かけると必ず拾って帰る。1枚の場合は、仏壇のお供えのお皿代わりの下敷きにする。公園などで何枚も拾った日は、夕食の1品のお皿にすることもある。
 
 掲句の「地(つち)に任せて」とは、どういうことだろう。意味は「地面のなすがまま」であるが、たとえば、アスファルトの上の柿落葉と黒土の柿落葉では、柿の葉の紅葉の美しさもかなり違ってくると思われる。落ちた其々の地面の色合いにしたがって、柿落葉の美しさもまたなすがまま、となるのであろうか。

 瀧井孝作は、小説家、俳人(俳号は折柴)、編集者である。小説の代表作『無限抱擁』など多数。娘の小町谷新子さんは、国文学者の小町谷照彦夫人で版画家。
 小町谷新子著『一生の春 父・滝井孝作』は、父を追懐した作品で、蝸牛社から出版した。また、蝸牛社刊『碧梧桐全句集』の制作では、瀧井孝作氏が預かっていたダンボール箱一杯の碧梧桐の句稿を提供していただいたことで、初の『碧梧桐前句集』を出版することができた。

■2句目

  いち枚に夕日寝かせて柿落葉  吉田鴻司 『現代俳句歳時記』角川春樹編
 (いちまいに ゆうひねかせて かきおちば) よしだ・こうじ

 この作品は、1枚の柿落葉に夕日がのってきたときの景である。「夕日寝かせて」と詠んだことで、柿落葉の美しさに夕日の赤みと暗さが加わって、柿落葉の美しさに深さが加わったことが伝わってくる作品となった。

■3句目

  火に透けて錆朱の深き柿落葉  角川春樹 『現代俳句歳時記』角川春樹編
 (ひにすけて さびしゅのふかき かきおちば) かどかわ・はるき

 句意はこうであろう。庭で落葉焚をした時のこと。だんだん火勢が強くなり、分厚い柿落葉は音立てて燃え上がり始めた。柿落葉が火に透けた、ある瞬間のことだ、その色合いは深い錆朱で、鉄錆のようなくすんだ朱色であったという。