第七百四十六夜 上田五千石の「冬の星」の句

 一昨日と昨日は、冬の雨がかなり強く降った日であった。今日は午前中には青空が出て、今夜は星が見えるだろうと期待していた。
 
 夜の8時、犬のノエルの散歩に出るや、南西の空を見上げた。三日月とすぐ上の方に1等星が輝いている。木星であるという。さらに、かなり近くに土星と金星がある。
 冬銀河は、白い雲の流れがうっすりと見えたが、これがそうなのだろうか。
 
 今宵は、「冬の星」と「冬銀河」の作品を見てみよう。

■冬の星

  かぞへゐるうちに殖えくる冬の星  上田五千石 『現代歳時記』成星出版出版
 (かぞえいる うちにふえくる ふゆのほし) うえだ・ごせんごく

 この句は面白い。
 子どもと一緒に星空を見上げて、知っている星の名前はいくつあるかな、と数えはじめた。この作品はもう50年近く前のことだとすると、星の数は現在よりもたくさん見えていただろう。
 
 「かぞへゐるうちに」星が「殖へてくる」って、どういうことだろうか? 
 
 最初に、この句は面白い、と書いた。数え出したのは一番星の出るころだった。だんだん闇は深くなり、目に見える冬の星の数も殖えてきた。数えた星と星の間に、見える星がさらに殖えてきたとしたらどうだろう? 
 上田五千石さんは、星をどこまで数えたのか、あまりの多さに、夜空を仰いでお手上げ宣言をした作品かもしれない。
 
 「殖える」とは、増えると同じ意味であり、主に数や量が多くなることをいうのだそうだ。

■枯木星

  枯木星ひとつぶ紙漉村眠る  迫田白庭子 『新歳時記』平井照敏編
 (かれきぼし ひとつぶ かみすきむらねむる) さこた・はくていし

 筆者の私が訪れたことのある紙漉村といえば、埼玉県比企郡小川町の「紙すきの村」だけである。車でもう少し走れば秩父市、という地である。
 
 掲句の紙漉村も大自然の中の村であろう。冬には木々は落葉して枯木の枝の間から見える星が枯木星である。

 迫田白庭子は、野見山朱鳥の主宰する「菜殻火」同人、後に大串章の「百鳥」同人。俳人協会山口県支部を立ち上げた役員役員の一人。94歳で死去。

■冬銀河

  裏富士に立ち上がりたる冬銀河  深見けん二 『蝶に会ふ』
 (うらふじに たちあがりたる ふゆぎんが) ふかみ・けんじ

 裏富士とは、山梨県側から見た富士山のことをいう。掲句は、山梨県側の河口湖畔か山中湖畔から見上げた夜空であろう。そこには冬銀河が、うすうすとしかもさだかに、流れるように、裏富士に立ち上がって見えるのであった。

 今、かつてよく遊んだ河口湖から眺めた富士山の雄大さ、朝日に輝く山頂、夕暮れ時の山頂の赤を含んだ輝きを思い出している。