第七百五十夜 富安風生の「冬菫}の句

 今日は、旧暦元禄15年12月14日夜に起こった旧赤穂藩士の吉良邸討入のあった日。前年3月、江戸城内の松の廊下で浅野内匠頭長矩が吉良義央に切りつけた刃傷沙汰の際、浅野は切腹、吉良はお咎めなしに対する不満から、赤穂浪士四十七士が仇討ちをした。
 NHKの大河ドラマでは、大石内蔵助役を演じた映画会大映のスターであった長谷川一夫や、歌舞伎界の一八代目中村勘三郎の迫力ある演技が今も浮かんでくる。
 
    松の廊下        高橋千劔霸
    
 「内匠頭殿! 乱心めされたか、殿中でござるぞ」
 江戸城中の警備役梶川与惣兵衛は、大声をあげて浅野内匠頭長矩にうしろから飛びつきました。しかし、浅野内匠頭は与惣兵衛を引きずるようにして、なおも吉良上野介義央に、抜き放った小刀をふり下ろそうとしました。上野介はすでに数太刀をうけて、江戸城の松の廊下とよばれる大廊下にうずくまっています。
 騒ぎを聞いて、近くにいた高家州や坊主たち、つづいて殿中警護の目付衆や諸大名が駆けよってきました。浅野内匠頭は、梶川与惣兵衛にうしろから羽交い締めにされたまま取り押さえられました。(『親子で読む歴史と古典⑰ 赤穂浪士』より)

 今宵は、「冬菫」の作品を紹介してみよう。


  わが齢わが愛しくて冬菫  富安風生 『富安風生全集』
 (わがよわい わがかなしくて ふゆすみれ) とみやす・ふうせい

 春に咲く菫の花であるが、冬の雑木林の日当たりのよい根本など可憐な紫色の菫を見るけることがある。雑木林が好きな私は、一年中、行きたいときにふっと車を走らせるのが牛久沼を右折した先にある蛇沼である。
 
 富安風生は、93歳というご長寿を全うされ、『草の花』から『古希春風』『老の春』『走馬燈』まで句集も多く出版されている。
 「愛し」は「かなし」と読み、いとしいという意味である。〈残生のいよいよ愛し年酒酌む〉〈夜半寒くわがため覚めて妻愛し〉などの作品もあって、風生特有の言葉になっているとも言えようか。
  
 年を重ねてきて、自分をふり返り、「老」を思う年齢になってきた。風生は郵政省の次官として、仕事も全うし、俳句も虚子の「ホトトギス」で活躍し、一筋に積み重ねてきた人生であった。その日々を「愛(かな)しくて」と詠んだのであった。


  寒すみれ摘まれ来しこと誕生日  後藤夜半 『後藤夜半全句集』
 (かんすみれ つまれきしこと たんじょうび) ごとう・やはん

 ある日のことだ。夜半は、寒すみれの束をさしだされた。いい歳をしたわたしに、寒すみれを摘んできてくれたのだ。その小さな出来事で、ああ、今日はわたしの誕生日だったことに気づいた。摘んできたのは、妻であろう。