第七百五十九夜 佐伯敬統の「雪合戦」の句

   シュールカとニュールカ       ソログープ
   
 シュールカは雪娘に近づくと、その青ざめた美しい唇にまとものキスをしました。
 クリスマス尾前日で、聖なる神秘の夜だったからでしょうか、子どもたちが自分たちの考え出したことをかたく信じていたからでしょうか、魔法を秘めたおとぎ話が静かな庭を不思議な魅惑でつつんでしまい、こどもの手で象られた柔らかな優しい雪の中に、創造的で自由で喜ばしい意思にもとづいて生み出される生活へのやみがたい意思を注ぎ込んだからでしょうか。とにかく、こうして、あったためしのないことがなし遂げられました。子どもたちの頑是ない願いが果たされたのでした。白い雪娘が生命をもち、シュール化に優しい、けれどもとても冷たいキスで応えたのです。
 シユールカは小声で言いました。
 「こんにちは、雪娘さん」
 雪娘が応えました。
 「こんにちは」
 薄い肩をちょっと震わせて、かすかにため息をつくと、雪娘の方からニュールカに近よってきました。それでニュールカは雪娘の唇にまっすぐにキスをしました。(『ロシアのクリスマス物語』田辺佐保子訳 群像社より)
 
 今宵は、「雪合戦」「雪だるま」の作品を見てみよう。
 
■雪合戦

  すかれたる教師は的や雪合戦  佐伯敬統 『新歳時記』平井照敏編
 (すかれたる きょうしはまとや ゆきがっせん) さえき・けいとう

 ある日のこと。小学校の担任の先生が「今日は雪だから、理科の授業は校庭で雪合戦にしよう」と言うや否や、子どもたちは「わーい!」と、いっせいに教室を飛び出した。
 雪合戦で一番に的になるのは、クラスの人気者が多い。子どもたちだけで始まった雪合戦を眺めていた教師は、「よーし!」と言いながら劣勢になっている方のチームに入ってきた。
 
 さあ、大変! 先生が助太刀に入ったチームは勢いを盛り返した。優勢だったチームも、負けるもんかと、今度は先生を標的にしてさらに勢いづく。先生は人気者だった。
 
 筆者の小学校の担任は理科が専門で、教科書の説明というより実験が多かった。よく2時間つづけて理科の授業をしてくれたからか、理科の授業も先生も大好きだった。雪合戦も、理科の雪の実験にしてくれたのかもしれない。
 
 笑顔で逃げ回る先生は、明るくてかっこよかった。

■雪だるま

  雪だるま一人ぼっちでとけてゆく  小4 油布 郁 
 (ゆきだるま ひとりぼっちで とけてゆく) ゆふ いく

 子どもたちが集まって作った雪だるま。みんなでわいわい言いながら作ってくれたのに、雪だるまは、目も鼻も口もついて、子どもたちと遊ぼうと思ったのに、雪だるまになった途端に、子どもたちは誰もいなくなってしまった。
 
 雪だるまは、手もないし足もない。夜も目をあけたままだ。だが、松本たかしの〈雪だるま星のおしやべりぺちやくちやと〉があるように、夜には星たちとお話しているのだろう。

 この句は、あらきみほ編著『名句もかなわない子ども俳句170選』の中で紹介した作品である。