第七百七十八夜 星野立子の「小正月」の句

 1月15日の今日は、「小正月」又は「女正月」。女正月は(おんなしょうがつ)とも(めしょうがつ)ともいう。 1月1日の正月を大正月といい男正月ともいい、1月15日を小正月、女正月という。
 正月を迎える準備を整えることは主婦にとって大仕事であり、客を迎え、接待をし、家族全員がその年を大切に過ごす礎となる日々でもあろうか。

 仕事が始まり、新学期が始まり、日常が戻ってくると主婦はほっと一安心する。そして、1月15日から女性たちの年始の挨拶回りをしたというが、小正月の行事は農民的な性格をもっていて、都会の会社勤めの人たちには会社のルールがあるだろう。

 結婚した最初の4年間は長崎市で暮していたが、夫の生家のある島原市へは行事がある度に出席していた。正月はお餅つきの手伝いに始まり、新年の挨拶回りに訪れる客の接待の準備をする母を手伝った。6人兄弟の一番下の嫁だから、言われる通りにしていた。お酒の燗をつける塩梅を見、ときにはお酌をすることもあった。正月料理は、全て小鉢に盛り付けて出していた。
 
 台所で陣頭指揮をする母は真剣であった。客間を二部屋、襖を外してテーブルを並べる。父は無口であったが真ん中に座って挨拶を受けていた。
 
 1月15日の小正月の母に会いに、東京から島原へ帰ったことはなかったが、きっと、ほっとした一日を静かに過ごしていたことと思っている。

 今宵は、「小正月」「女正月」の作品を見てみよう。

■小正月

  誰も来よ今日小正月よく晴れし  星野立子 『ホトトギス新歳時記』
 (たれもこよ きょうこしょうがつ よくはれし) ほしの・たつこ

 今日の小正月はこんなに良く晴れているわ。どうぞ、あなたも、あなたも、みんないらっしゃい。美味しいものを食べて、楽しくお喋りでもしましょうよ、となろうか。

 小正月と女正月を分けてみたのは、2通りの言い方があるからにすぎないが、俳句にする場合は、語の音やリズムでどちらにするか決めるのであろう。「来よ」「今日」「小正月」もは、いずれも「k」の破裂音が入っていて、それが作品のリズムになり、立子の心の弾みを感じさせる音となっている。

■女正月

  芝居見に妻出してやる女正月  志摩芳次郎 『新歳時記』平井照敏編
 (しばいみに つまだしてやる めしょうがつ) しま・よしじろう

 中七の「妻出してやる」という夫の言い方の強さに、明治大正の戦前の世代の夫の、家庭における男性上位を感じた。しかし句の内容はきっと、「今日は女正月だから、たまには君も、芝居でも観に行ってこいよ。」と、志摩芳次郎は言葉をかけたのに違いない。

 志摩芳次郎は1908(明治41年)生まれ、1989(平成元年)81歳死去。