第八百十二夜 山田弘子の「早春」の句

 北京オリンピックに夢中になっている。いつもは、羽生結弦のフィギュアスケートが無事に終れば満足しているのだが、今回は違った。ジャンプの小林陵侑、スケートの高木美帆、スケートボードの平野歩夢選手たちの、それぞれのメダル授与式後のインタビューでの話に惹かれた。
 歩夢は、ここ数年というもの、冬のスポーツニュースのなかで独特のスタイルで頑張り続けている姿を観ていた。2014年のソチオリンピックと2018年の平昌オリンピックでは2位の銀メダル、今回は初めて金メダルを取った。堂々とした話しぶりであったが、まだ23歳だという。
 
 誰もがぎりぎりの努力をして参加するオリンピック。努力が報われる人があり報われない人がいる。オリンピックでも毎年のシーズンの試合でも勝ち続けてきていた羽生結弦が・・、安心しきって観ていた、滑りはじめて間もなくだった・・初めて試合で試みたクワッドアクセル(4回転半)で転倒してしまった。誰もがあーっと思ったに違いない。だが、点数を見ると、4回転半は完璧ではなかったが、初めて試合で行った技として認められていた。失敗したら新しい技は「ない」というのではなかった。
 後でわかったことだが、氷に穴が開いていたという。

 今宵は、「早春」「春遅し」の作品を紹介しよう。 

■1句目

  早春の光もろとも釣れしもの  山田弘子 『ホトトギス新歳時記』
 (そうしゅんの ひかりもろとも つれしもの) やまだ・ひろこ

 早春とは、春まだ浅いころの、2月の中旬から下旬ころまでのことで、春になったといっても1年で最も寒いころともいえる。ホトトギスの西山泊雲の句に〈冴え返り冴え返りつつ春なかば〉がある。
 この陽の光の注ぐさまは、早春の寒さをともなった鋭さもあるが、春の色、春の匂、春景色というように春めいている。
 
 長崎県にいるころ、休みの日に友人夫婦と4人で釣りに行くことがあった。浜辺からルアーを飛ばして・・バケツいっぱいに小魚が釣れた日があった。そんなに食べ切れるものではないから、後が大変だ! 家に帰る前に、夫の姉の家や兄の家に立ち寄って、貰ってもらった。
 
 掲句は、早春の釣りに出かけた折のことであろう。砂浜からの投釣りのようである。春の海は、風もやわらかで、おだやかに明るくひろがっている。針に食いついた魚は、苦しがって逃げようとして、きらきら海水を飛ばしながら暴れながら釣り上げられる。
 まさに「早春の光もろとも」釣り上げられたのであった。

 山田弘子(やまだ・ひろこ)さんは、昭和9(1934)年、兵庫県和田山市生まれ。平成22(2012)年に亡くなる。昭和45年に「ホトトギス」入会し、昭和55年に同人。平成7年に「円虹」を創刊主宰。
 
■2句目

  漢方の痩せる茶遅々と春遅々と  平井閑子 『現代歳時記』成星出版
 (かんぽうの やせるちゃちちと はるちちと) ひらい・しずこ

 この作品の面白さは、「痩せる茶遅々と」と「春遅々と」の、並列にならべた措辞ながら、まったく異なるものを並べたところであろうか。
 
 平井閑子さんが、実際に痩せようとして漢方の痩薬を飲んでいたのかどうか、だが痩薬と銘打ってあるから買って飲んでみたが、一向に痩せる気配はない。あせらずにゆっくり効き目をまっている平井さん。痩せ薬の効目の遅々としたスピードと、そういえば今年の春のすすみ具合の遅さは、似ているなあ・・と思っている。
 句意はこうであろうか。