第八百十四夜 山口誓子の「春の星」の句

 ここ数日、満月に近い月が夜空を照らしていたが、2月17日の今宵が満月である。アメリカの先住民が名付けた呼び名で、スノームーンというそうだ。ちなみに、1月はウルフムーン、3月はワームムーン、4月はピンクムーン・・とつづく。何気に覚えていたのが6月のストロベリームーンだ。

 大きな満月であった。今宵の買物は、わが家から東にあるスーパーまで遠回りして、娘と一緒に夜に行くことにした。大通りに出ても、少し曲がっても視界にはスノームーンが大きく黄金色に輝いている。
 満月を眺めながらの遠回りは、大正解であった。
 
 犬のノエルの夜の散歩は、毎夜、私が連れていっている。夜空の星や月を見たいから、杖をつきながらだけれど散歩係を買って出たのだ。守谷市のここら辺りは少し高台になっていて、住宅地をぬけると広い畑と、広い空が広がっている。この時期、とくに美しい春の星々が光っている。
 
 今夜のような満月の日には、春の星たちは、月とは違った透きとおるような煌きを見せてくれる。
 
 今宵は、「春の星」の作品を紹介しよう。

■1句目

  名ある星春星としてみなうるむ  山口誓子
 (なあるほし はるぼしとして みなうるむ) やまぐち・せいし

 三ツ星が並んでいるオリオン座は、すぐに「あそこよ」と言えるようになった。オリオン座で一等星はペテルギウス。その隣のこいぬ座の一等星はプロキオン。こいぬ座の下に見えるのがおおいぬ座で、一等星はシリウス。
 毎晩のように確認しているつもりだが、いざ書き留めようとすると、あらっとなり、星座の本で確認している。
 
 掲句の「名ある星」とは、オリオン座のペテルギウス、こいぬ座のプロキオン、おおいぬ座のシリウスであろうか。
 山口誓子が見上げた夜空の一等星の名を口ずさんでみると、オリオン座のペテルギウスも、こいぬ座のプロキオンも、おおいぬ座のシリウスも、「はーい!」とばかりに、うるんでみせてくれるかもしれない。
 
 筆者の私にも、近ごろはいくつかの一等星たちが、うるんでくれるようになってきた。

■2句目

  春の星雲逝くごとにふえにけり  中川宋淵
 (はるのほし くもいくごとに ふえにけり)

 中七の「雲逝くごとに」の「逝く」とは、向こうへ去る、という意味である。
 空を覆っていたかなりの雲が、少しずつ雲が遠ざかってゆくにつれて、今まで見えなかった春の星たちが天に煌きはじめましたよ、という句意になろうか。

 今宵は、平井照敏編の『新歳時記』より紹介させていただいた。