第八百二十二夜 深見けん二の『夕東風』の句

 昨日の2月27日は、ワクチン接種の3回目であった。1回目、2回目と同じ守谷市イオンタウン内のメディカルクリニックに娘の付添で行った。一人で大丈夫なのに・・と思ったが、いろいろな副反応があるからと付いてきてくれたのだ。外資系の薬品関連の仕事をしているので、健康のことに詳しくて助かっている。
 
 2回目のときは、地元の友人が強目の鎮痛剤を用意しておくといいよ、のアドバイスで準備していた。今回も準備した。昨日は、クリニックから戻ってテレビの前に座ったきり、動かなかった。夜になると、左腕が重くなり、動かすのが辛いほど重くて痛くなった。
 犬のノエルは、ゆうに25キロは越えている黒のラブラドールで、この巨体の犬と、でっかい人間の私は一つベッドに寝ている。腕が痛いのに寝返りすると更に痛む。
 
 そんな一夜を過ごして、今日もまだ左腕は重くて痛かったが、夕東風の吹く頃になって、やっと痛みは失くなりかけている。
 
 今宵は、「夕東風」の作品を紹介してみよう。

  夕東風や届きて重き全句集  深見けん二 『もみの木』ふらんす堂
 (ゆうごちや とどきておもき ぜんくしゅう) 

 全句集とは、平成28年(2016)3月5日に『深見けん二俳句集成』が刊行委員会の編集により、ふらんす堂から発行された著書である。判型はA5版、394頁、カバー装である。
 
 3月5日の奥付は、先生の誕生日である。この句集がけん二先生のご自宅に届けられたのは、発行日から間もなくの3月5日。先生は、出来上がって送られてきた、その一冊を手にとったときの重量感を覚えている。
 
 奥付は、本が出来上がった日付だが、思い入れのある日付にしたりする。奥付の日付は動かすこともできるので、誕生日にしたのかもしれない。
 一緒にしては申し訳ないが、私の句集の奥付も11月10日の誕生日にしていた。
 
 私たち「花鳥来」の会員が待ちに待っていた全句集で、この一冊は平成26年(2014)に第48回蛇笏賞(角川文化振興財団主催)を受賞した2年後に刊行されたものであった。
 この頃のけん二先生のご活躍は目覚ましく、俳句界の先陣をゆく俳人であった。
 
 深見けん二先生の生涯の句歴は80年に及んでいるが、全句集『深見けん二俳句集成』が刊行された時は、句歴75年目であった。けん二先生の師である高浜虚子の生涯の句歴は62年あまりであった。
 
 掲句の「重き全句集」は、もちろん、判型A5版、394頁、ハードカバーの句集の重さでもある。しかし先生にとって最も重く感じられたのは、よくぞここまでという、句歴75年という月日の重さであったのではないだろうか。

 作品の季語は「夕東風」である。「東風」は、春になってから吹く風をいう。春吹く風ではあるがまだやや寒い感じがある。しかも夕東風が吹いているということは、「重き全句集」に、さらに夕方の寒さも加わったということになる。
 先生は、『深見けん二俳句集成』を、ずしりと両手に受けたことであろう。そしてきっと、これからの俳人としての月日も、重く受けたのであったにちがいない。