毎年5月10日~16日は愛鳥週間である。野鳥愛護のために設けられた一週間(5月10日~5月16日まで)で、バード・ウィークとも言う。その最初の5月10日を愛鳥の日という。鳥の観察や巣箱を設けての保護、禁猟期間の徹底など愛鳥精神を養う。
茨城県取手市に住んでいた頃、車で30分ほど走ると牛久沼があり、右折して龍ケ崎市の方に蛇沼公園という名前は怖いけれど、美しい雑木林の周りはぐるりと沼になっている。細く半円を描く沼の形から蛇沼の名が付けられたようである。
この一角に鳥の観察できる覗き穴のある板塀が作られていた。1回くらいは覗いたことがあったと思うが、ここの森は、観察小屋など必要はないほど、自然に飛び、鳴き声をたてていた。桜の花の散るころなど、鳴き声に合わせて花びらが流れていくようで、いつまでも、先代の黒ラブ犬と一緒にぼーっとしていた。
愛鳥週間と言えば、蛇沼の雑木林が浮かんでくる。
今宵は、「麦笛」の作品をみてみよう。
■1句目
唇に甘き麦笛吹きにけり 相島虚吼 『ホトトギス雑詠選集』夏の部
(くちびるに あまきむぎぶえ ふきにけり) あいじま・きょこう
鑑賞してみよう。当時の句会は、ほとんど兼題である。
麦笛を吹こうと、麦を折りとった。唇に当てると、麦の匂いとともに仄かな甘い味がした。オッと思いつつ麦笛を吹いてみましたよ、となろうか。この時代は、デートはなかったにちがいないが、初恋の匂いを、麦の匂いの甘さの中に感じていたかもしれない。
相島虚吼は、慶応元年、明治維新の前年、茨城県に生まれた。大阪毎日新聞社で編集主任・副主幹・顧問等を歴任後、「昭和日日新聞」を創刊し、主宰となる。
のち衆議院議員に当選し、憲政擁護・閥族打破に尽力。その一方で俳句では正岡子規・高浜虚子に師事、虚子の「ホトトギス」に参加。句集に『虚吼句集』等。昭和10(1935)年歿、69歳。
■2句目
麦笛にかゞやく路のあるばかり 軽部烏頭子 『現代俳句歳時記』角川春樹編
(むぎぶえに かがやくみちの あるばかり) かるべ・うとうし
2021年度の、茨城県の麦の生産高は全国10位。ちなみに米の収穫高は全国6位であった。つくば山方面にドライブするのは広々とした関東平野のど真ん中を走るので気持ちがいい。きぬ川沿いをゆくのが好きだが、右手に稲田、左手は麦畑の広がっている。
鑑賞してみよう。
明治も終わり大正時代の初めの頃、黄熟した麦畑の道は、子どもたちの遊び場でもあった。麦の季節のおもちゃは、麦から抜いた茎の穂であった。切りとった茎から、息を吹くと音がでる。麦笛を上手に鳴らす子は仲間の人気者だ。お兄ちゃんかもしれない。上手に麦笛を吹く子の後ろにぞろぞろと弟や妹がついてくる。
農道は、麦笛の音楽隊のとおる路となり、かがやき始める。
軽部烏頭子(かるべ・うとうし)は、明治24年(1891)-昭和38年(1963)、茨城県生まれ。本名は軽部久喜(くき)。東京帝大卒。「ホトトギス」に投句を続け、昭和6年、水原秋桜子が「馬酔木」を創刊するとき筆頭同人となった。茨城県土浦市の内科医。句集に『灯虫(ひむし)』など。
1句目の相島虚吼、3句目の軽部烏頭子は、たまたまであるが、2人ともに茨城県出身であった。