第九百六十七夜 正岡子規の「虫の声」の句

 毎日の犬のノエルの夜の散歩は私の担当で、8時前後の30分ほど。近所の数軒先の片側には空地と雑木林が広がっていて、月と星の観測地点でもある・・と言えばかっこいいけれど・・守谷の夜空でよく見える星座は、ぼわんと見える天の川をはさみ、白鳥座のデネブ、わし座のアルタイル、こと座のベガをはさんでできる大きい三角形で、夏の大三角とも呼ばれている星座である。
 その下の方に北斗七星があり、外に出るや一番先に目に入るので、夜空の星の目安としている。
 
 毎夜、知っている限りいくつかの星座を確認し終えると、ちょうど、わが家の前に戻ってくるのだ。虫の音がにぎやかで姦しいほどだが、秋が終わる前にしっかり鳴いておくのは虫たちの求愛行動・・春になれば卵が孵るのだ。
 人間が、虫の世界に立ち入って「やかましいぞ! うるさいなあ!」などとは、言ってはいけないことだろう。
 
 今宵は「虫」の作品を見てみよう。

  窓の灯の草にうつるや虫の声  正岡子規  『正岡子規』
 (まどのひの くさにうつるや むしのこえ) まさおか・しき

 明治維新となり、新しい時代に生まれた正岡子規は、これからの俳句はどうあるべきかと考えた。まず、古今の句を知らなければならないと痛感した子規は、連歌から江戸俳諧まで発句を取り出し、季題別、類題別に並べて書き出し、「俳句分類」の編纂作業を始めた。さらに芭蕉まで遡った時、蕉門俳句の格調の高さに出合ったという。
 
 さらに、子規は勤務先の日本新聞社で、挿絵画家の中村不折と出会から洋画家との交遊の中で教わったことが、実際の物に触れて描く西洋画のスケッチやデッサンであった。
 
 掲句はつぎのようであろう。子規が窓を開けたとき、窓の灯が庭の草むらを映し出した。急に明るくなった草むらに、暗い庭に潜んでいたはずの虫たちは一斉に鳴き出したのだ。明け方になったのだと思ったにちがいない。


  蟋蟀が髭をかつぎて鳴きにけり  小林一茶  『小林一茶全俳句集』玉城司選
 (こおろぎが ひげをかつぎて なきにけり) こばやし・いっさ

 上五中七の「蟋蟀が髭をかつぎて」とは、どういう姿なのだろうと思いながらネットで蟋蟀が動く姿を見ると、蟋蟀の髭は太くて長い髭であることがわかった。その太くて長い髭は、蟋蟀のからだが動くたびに「よいしょ」と言わんばかりに髭も一緒に動いていたのだ。
 その動作は、蟋蟀が髭を担いでいるようであり、「かつぎて」の表現は、オーバーな表現ではなかった。