第九百七十八夜 清崎敏郎の「露草」の句

 昨夜の8時からの実況中継では、ウェストミンスター寺院で行われた英エリザベス女王の国葬に、テレビの前の私たちもイギリスでの国葬と同時間に立ち会っているように感じることができた。
 
 卒業した青山学院の高等部では毎日、全校生徒参加の30分のチャペルの時間があって、1時間目を終えるとPS講堂に向かった。私は、高等部までは下井草の井草教会の門の向かい側に住んでいて日曜学校に行っていた。讃美歌が好きで、いまも讃美歌のフレーズが細切れに頭に流れていることがある。

 昨夜、なぜ高等部時代を思い出したのかというと・・英エリザベス女王の国葬では、ほとんど知っている讃美歌が唱われていたからであった。
 それにしても、ウェストミンスター寺院の建物の広大さと格調の高さ荘厳さは圧倒的であった。今更のように思い出すのが、イギリスの植民地が世界一であった時代であり、亡くなられたエリザベス女王が統治していた時代があったことである。

 さて今宵は、「露草」の作品を紹介してみよう。


  露草と朝の挨拶交しけり  清崎敏郎 『現代歳時記』成星出版
 (つゆくさと あさのあいさつ かわしけり) きよさき・としお

 朝の散歩に出かけると、途中の原っぱの露草が可憐な顔を見せてくれる。露草のこころもち三角形の花の形には優しげな目つきを感じるのでそう思うのであろう。
 
 「おはよう! ツユクサさん! 今朝もよい塩梅に露にぬれているのですね!」
 「まあ、ありがとうございます!」
 
 と、お互いの心は通じるもの・・。


  人影にさへ露草は露こぼし  古賀まり子 『現代俳句歳時記』角川春樹編
 (ひとかげにさえ つゆくさは つゆこぼし) こが・まりこ

 露の気持ちになって考えてみよう。足音がして、ああ人が歩いてくるのだわ、と思ったときから露草は大きな露をこぼして喜ばせてあげよう、と準備しているのかもしれない。
 それを知った人間はどうするかって? 優しい人はそおっと近づき、いたずら好きな人は足音高く驚かそうとするかもしれない。
 
 早朝と夜露の降りるころの2回が、私と犬の散歩の時間である。犬は、露草の露と雑草の露に別け隔てすることなく、きもちよく踏んづけてゆく。


  くきくきと折れ曲りけり螢草  松本たかし 『現代俳句歳時記』角川春樹編
 (くきくきと おれまがりけり ほたるぐさ) まつもと・たかし

 ツユクサ科は、湿り気のある畑や道端や空地に生える。万葉集では月草(つきくさ)ともいい、「螢草」「帽子花」という別名もある。古くから染料として用いられ、その色を露草色という。
 ツユクサの花びらは3枚のうちの2枚は目の覚めるような青色。お昼過ぎにはもう花の形は消えてしまっている。花はどこへ行ったのか不思議に思いながら植物細密画を描いていた野村陽子さんでしたが、花は散るのではなくて、くるっと丸まって縮んでしまったと言っていた。(野村陽子著『細密画で楽しむ 里山の草花100』より)
 
 松本たかしの作品はは、螢草(ツユクサ)の花ではなく茎の形に焦点を当てている。写真を見ると確かに、花の付いている茎のところで、僅かながら折れ曲がっていた。その折れる様を、音として「くきくきと」という擬音によって表現したところがユニークである。