初夢や四割る二が割り切れず 『円穹』
作品をみてみよう。
「四割る二」がどうしても割り切れないというのだ。理数系も得意な和子さんなら簡単に解けそうだけど、夢の中では、解けそうなのに数字がどうしても浮かんでこないこともあるのだろう。俳句の中に詠み込む数字としては掛け算では「三三が九」「二二が四」が、割算では「四割る二」がシンプルでリズムがいい。
この作品は、季語が新年の「初夢」であること、割算がすぐに明確な解答の出るものであること、この二つによって口に上りやすい名句になったと思う。
片山和子(かたやま・かずこ)は、昭和二十年(1945)、石川県金沢市の生まれ。両親は鹿児島の出身。津田塾大学英文科卒。基督教・仏教シンパ。東洋大学大学院でさらに勉強を重ね、心理学を学び、練馬区役所で相談員として働いていた。蝸牛社からは絵本の翻訳者として、ニュージーランドの『風のうた』、キューバの『森をすくったシンバ』など。日東書院からは著書『震災と心のケア』がある。
「円穹俳句会」が生まれたのは、東京を離れ、茨城県南の守谷市に移り住んだ私が、認知症の母の介護で句会にも吟行にも行けない状態のとき、小学校以来の親友の片山和子さんとご主人の片山丹波さんが、「守谷でやろうよ」と言ってくれたことに始まる。友が友を呼び、半分は初心者であった参加者もみな素晴らしい作品を詠むようになった八年目の平成二十五年、合同句集『円穹』を刊行した。一人8頁、四十九句。和子さんのタイトルは「オッ満開」。
作品の幅が広く個性的である。いくつか紹介させていただく。
オッ満開 万花一斉 オッ満開
句会でこの句が回ってきたとき、うーん、これって俳句と言っていいのかしら、と思ってしまったが、不思議なインパクトがある。しかもリズムがいい。「万花一斉(ばんかいっせい)」の万花とは、いろいろな花の意で、桜の花を特定しているわけではない。しかし「オッ満開」と叫び、しかも二回も叫んだ。
「オッ満開」のリフレインによって、「万花一斉」とは「桜の花が満開」であると、誰をも信じさせてしまう説得力が生まれたのだ。
東風に乗り一寸法師ちょこんと来
和子さんは、四人のお嬢さんがいる。それぞれ結婚して、当時は〈孫六人もう一人乗り七福神〉、今年の九月にはお孫さんが十二人になるという幸せなおばあちゃんである。
この作品の主人公は、未熟児で613グラムで生まれた。「片手に乗るほどよ」と聞いても想像しかねていたが、句会で、「一寸法師」の句が回ってきたときは皆が大喝采した。勇敢さと機知で立派な武者となった一寸法師の比喩として、また春の訪れである「東風」に乗せて、見事にお孫さんを詠んでいる。エールの句であり、小さな命への溢れる愛を感じた。
地が割れて心がふれてクリスマス
東日本大震災の直後に、和子さんと『震災と心のケア』の本造りをご一緒した。そのとき、私は改めて彼女の道義心の深さに気づかされた。この作品はその年のクリスマスに詠んだもので、大震災を、旧約聖書の説話に準えて「地が割れて」と詠み、未曾有の体験の中で人々の心は絆で繋がったことを、心と心が触れ合うクリスマスの心に重ねた。