第二百十一夜 穴井太の「蟬」の句

 平成7年(1995)刊行の『蝸牛 新歳時記』の編集作業の折、天文の季語「秋」に置かれた〈秋を病みやさしくなるは恐ろしき〉の句を見た瞬間、心にすとんと何かが響いたことを覚えている。当時、北九州市で俳誌「天籟通信」を主宰さ...

第二百九夜 檜 紀代の「埋火」の句

 今宵は、檜紀代さんの『花は根に』から紹介させていたくことにする。本書は、蝸牛社の「俳句・背景」シリーズの14人目。33のテーマによる俳句と随筆のコラボレーションの中で、心の内を他人には覗かせないという作家もいれば、間近...

第二百七夜 大牧 広の「春の海」の句

 大牧広氏の編著に、『秀句三五〇選 港』(蝸牛社刊)がある。あとがきには、「この三五〇句を鑑賞するに当たっては単なる客観に終始するのではなく、あくまで〈人の世の港〉という座標軸を据えて書くべきだと思っていた。」と、書かれ...

第百七十七夜 星川和子の「花」の句

 守谷市で「円穹(えんきゅう)」俳句会が生まれたのが平成十六年、私の記憶も定かではないが、星川和子さんとの出会いは数カ月後の手賀沼吟行であったと思う。  どこか淋しそうな面立ちであった。夫を亡くし、さらに父を亡くし、仙台...

第百七十六夜 伊藤通明の「桃」の句

 伊藤通明氏は、『蝸牛俳句文庫 久保田万太郎』『秀句三五〇選 鳥』『秀句三五〇選 海』などの著者としてお会いしたが、同じ九州出身ということもあり今も懐かしい方である。  鑑賞を試みてみよう。   夕月や脈うつ桃をてのひら...

第百五十四夜 渡辺水巴の「菫」の句

 渡辺水巴(わたなべ・すいは)は、明治十五年(1882)―昭和二十一年(1946)、東京都台東区生まれ。父は近代画家の渡辺省亭。水巴は明治俳句で身を立てることを志し、明治三十四年、内藤鳴雪の門下生となり、終生俳句以外に職...