第八百五十六夜 あらきみほの「夜桜能」の句
一番最初に薪能を観たのは、平成6年、靖国神社能楽堂での奉納靖国神社夜桜能であった。それまで興味を持ったことのない「お能」を何故観ようとしたのかと言えば、高浜虚子の晩年の弟子の深見けん二先生の元で俳句を学び、結社「花鳥来...
一番最初に薪能を観たのは、平成6年、靖国神社能楽堂での奉納靖国神社夜桜能であった。それまで興味を持ったことのない「お能」を何故観ようとしたのかと言えば、高浜虚子の晩年の弟子の深見けん二先生の元で俳句を学び、結社「花鳥来...
紫荊、花蘇芳という漢字の「はなずおう」と呼ぶ花に出合ったのは、東京板橋区の赤塚植物園であった。今でもくっきり思い出すことができるのは、紫荊の花の独特の咲き方であった。 ちょうど今頃に咲く花で、最近のNHKのトーク...
4月17日の未明は、春満月であった。いつものように毎夜の犬の散歩にゆく私は、家から一歩出るや空を見上げた。一か所が眩しく縁取りされている雲があった。そこだけ異様なほどの輝きであったので、しばらく眺めていた。すると、雲の...
春になり春の気配を感じた動物たちは、今まで冬眠していた穴から外をうかがいながら、もっそりと穴から出てくる。土の匂いも草の匂いも大空の匂いも、「おーい! 春になったよー!」と、呼んでいるみたいだ。 「(○○)穴を出づ」...
あらきみほの第2句集をどの時期で出そうか、第2句集は第1句集より、1つでも内容なり技巧なりが勝ったと思えた時が訪れたら、俳句の世界に問うことのできる何かを感じることができたら、その時にしようと思っているが、むつかしい決...
朝方は小雨が降っていたが、犬のノエルの散歩を中止するほどではなく、いつもの半分の距離で「もう帰ろうか?」と言うと、すぐに回れ右をしてくれる。昼前には雨は止み、雨催(あまもよい)の雲の垂れ込めた一日となった。 今が...
春は水蒸気が多いので、朧で春の月もぼんやりとかすんで見える。南方からあたたかい湿気の多い空気がやってきて、夜、地面付近の空気が冷え、上空がそれより高い温度だと、気温の逆転層が出来て、その下に霧があらわれ、月がおぼろにか...
平成11年12月、わが家は東京と練馬区から茨城県取手市のマンションに引っ越した。なぜ茨城県だったかというと、不動産業を手広くやっていた夫の知人の建てたマンションの空きがあったからであった。 次に越したのが、現在の守谷...
三番目のヒヤリは、どれにしようか? 小さな出版社の経営は、毎月毎月を越えることが大変だった。よくぞ何十年もの間、ドキドキしながら越えてきたものだと、夫にではなく、神様に御礼が言いたい・・! たまらなく辛い時、編集、経...
子どもが小さい頃、子ども連れで友人宅を互いに行き来しては、お喋りを楽しんでいた。都心の銀座とか大学時代に遊んだ渋谷や青山に小さな子どもを連れて行くことはできないからだ。子ども同士も仲良く遊んでくれる。 まだ幼い年...
大学卒業後、東京で出合った現在の夫の郷里の長崎県へ行った私は、長崎市の活水高等学校の英語教師になった。4年間を過ごした長崎の、歴史ある街をとても気に入っていた。 だが3年目、車を買ったことから、心も身体も疼きだした。...
早春のまだ寒い頃の雑木林や山道や畦道の片隅に、よく見かけるのが立壺菫(タチツボスミレ)。高さ10~20センチの花茎に濃青色の五弁の花がひっそりと可憐な風情で咲いている。 茨城県南に越してからは、利根川の土手や河川...
70年も昔の小学校時代の春休のことといえば、真っ先に、青っぱなを垂らしていた、同級生の炭屋の息子を思い出す。亡くなって小学校の同窓会に出席しなくなってからも、すでに20年は経っている。 彼のことで思い出すことの、...
東京から年末の12月に転居したわが家は、先ず花見の場所を調べた。見つけたのは小貝川には流れを調節するための福岡堰である。土手の道は、春には桜の並木道になることを知った。一番に惹かれたのは、その桜並木の1.8キロという距...
昨日、第八百四十一夜を終えました。ここで、5日間ほど、春休みにさせて頂きたいと思います。 毎夜お読みくださっている皆様、また時折に「千夜千句」にお立ち寄りくださいました皆様、本当に有難うございます。 この間に、...
眠りの誘ひ 立原道造 おやすみ やさしい顔した娘たち おやすみ やはらかな黒い髪を編んで おまへらの枕もとに胡桃色にともされた燭台のまはりには 活発な何かが宿つてゐる(世界中はさらさら...
昨日の陽気に、娘は、物言わぬ犬と目を合わせてしまったらしい。「散歩に行こうか?」の一言で、ノエルは耳をぶるんと振って尻尾を振りはじめている。私も車の後部座席でノエルの監視役としてお花見に行くことになった。 車で1...
「てふてふひらひらいらかをこえた」という、ひらがなだけの、字足らずの、種田山頭火の自由律の句がある。自由律俳句というのは、五七五の定型を破り、季語に囚われず、気分や思いのままに口語で自由に表現したものであるが、山頭火の...
つい3年前までは、マスクをする時は風邪にかかった時か花粉症の季節の頃か、歯の治療中の間くらいだった。中国の湖北省武漢でコウモリ媒体による新型コロナウィルスの感染者が、最初に発症したとされた日から令和4年の8日で、2年目...
今宵は、津髙里永子さんの第2句集『寸法直し』から幾つかの作品を紹介させていただこう。 今年の2月にご贈呈くださった句集のタイトルの『寸法直し』に、まず惹かれた。さらにタイトルの文字にどこか懐かしさを感じたが、目次ペー...
昨日は春分の日。この春分の日を「お中日」とした前後三日ずつの七日間を彼岸という。今年の彼岸の入は3月18日、21日が春の彼岸のお中日、24日までを彼岸という。今年の春分は3月21日の月曜日だったので、土日月という思わぬ...
私が小学校一年生になる年に、わが家は、杉並区の井草教会が併設していたひこばえ幼稚園のお向かいに越してきた。70年も経つ。お隣には同い年のアッコちゃん、近くにはユッコちゃん、駅の方に少し歩いてトモちゃんと仲よしであった。...
辛夷(コブシ)の花が満開になった。私の住む茨城県守谷市の守谷市役所に、コブシの大樹が何本も植えられている。コブシの白は、 木々の花の少ない枯れ色の中で、まさに鮮やかな春の魁(さきがけ)だ。 この季節になると、満開にな...
いつもスーパーへ行くときでも、車で行ってしまう。娘からは、「歩きなさい! 大腿骨骨折の一番の療法は、太陽に当たることと、歩くことなんだから!」と、注意されている。夫もなかなか厳しい。犬の散歩は、家族が分担しているが、私...
3月11日に、「3・11」「東日本大震災」のことを書こうと考えていたが、腸閉塞の手術後2日目の犬のノエルに心を奪われていて、当日は書くことができなかった。 ところが昨夜、寝入りばなのことだ。ドドーンと揺るがすよう...
蕗の薹のことを書くのは、昨年の2月24日につづいて2度目。今年もわが家の隣の空き地に蕗の薹が顔を出したが、1月も2月も寒さが厳しかったためか、いつものように夫が摘んできてくれたのが3月の初めであった。 守谷市に越...
3月9日に動物病院に2度目の腸閉塞で入院したノエルは、その日のうちに手術をした。タオルが2つも詰まっていたという。それでは苦しいに決まっているのに、空きあらば、布切れを食べてしまうし、叱っても懲りないし・・。 手術の...
このところ、ウクライナとロシアとが戦闘状態となり、テレビニュースにプーチン大統領が毎日登場している。なんだか、以前に見たときよりも、悪者になったような顔つきをしている・・! ソ連時代を含め、大統領職は2回目である。来...
山口誓子は、明治34年(1901)京都市に生まれ、母が自殺したため外祖父に育てられ、外祖父の仕事の関係で樺太(サハリン)へ渡り、小学校、中学校と過ごし、のち京都第一中学校を卒業した。妻は山口波津女、妹はホトトギス同人の...
平成19年の春号は、10句の投句は椿の句だけにしようと考えた。まずは茨城県南の椿を探した。大通りから一歩はいると、古いお屋敷が並んでいる。広い庭には、梅、椿、枝垂桜の老樹がゆったりと植えられていた。通りからでも見ること...
私たちの師の深見けん二先生の誕生日は、3月5日の啓蟄の日である。2021年9月15日に亡くなられ、あっという間に半年が過ぎてしまった。2020年の誕生日には、「啓蟄を明日にしてわが誕生日」と詠み、2021年の3月5日の...
昨日は、3月3日の「雛祭」であった。しばらく箱から出して飾ってあげていないなあ・・! 室内で飼っているラブラドール・リトリーバーはもう7歳になっているのだが、相変わらずのやんちゃ犬で、なんにでも興味津々で鼻でつついたり...
「ホトトギス」名誉主宰であった稲畑汀子さんが、令和4年2月27日午後4時48分、心不全のため兵庫県芦屋市のご自宅で亡くなられた。このニュースは、本日3月2日、偶然スマホを見ていた画面に飛び込んできて知ったのであった。 ...
三叉土筆 野口雨情 ある日、二人の仲よしは、土筆を採りに行くことになりました。おたあちゃんのお母さんは、いつものやうに、二人のお弁当をこしらへてくれました。そして云ひました。 「土筆を採りに行ったら...
昨日の2月27日は、ワクチン接種の3回目であった。1回目、2回目と同じ守谷市イオンタウン内のメディカルクリニックに娘の付添で行った。一人で大丈夫なのに・・と思ったが、いろいろな副反応があるからと付いてきてくれたのだ。外...
俳人協会から刊行された『深見けん二集』を、久しぶりに読み返してみた。自註現代俳句シリーズ・続編20は、平成元年、私が朝日カルチャーセンター光が丘の深見けん二教室で師事をはじめた頃の作品からはじまっている。どの作品も懐か...
天皇誕生日の2月23日は休日。よく晴れて風も少なかったので、犬のノエルを連れて娘と一緒に守谷市の四季の里公園をぶらり歩いてきた。緑らしきものは、葉の出ていない柳の細枝のうすみどりだけであった。 庭の雪柳はもう小さ...
江戸前期の俳諧流派で、松永貞徳によって提唱された俳諧の流派である。談林(だんりん)の新風・異風に対して古風・正風ともいう。この頃には「田打」「畑打」の季語はすでに用いられてをり、貞門時代の古い季語である。 「田打...
今宵は、「白魚」を書くつもりで調べはじめたところ、何と、私の住む茨城県の霞ヶ浦の北浦が白魚が有名な産地であった。漁獲量のトップは青森県で、茨城県、北海道とつづく。 明治から昭和にかけて盛んに行われた『帆びき網漁(※)...
立春から数えて15日目ごろの昨日の2月18、19日あたりから、二十四節気のひとつの雨水となる。空から降るものが雪から雨に変わり、氷が溶けて水になるころをいう。この日から啓蟄までの期間もいう。 雨水は、歴便覧には「...
昨夜から決めてあった季語「冴返る」「凍戻る」「余寒」であるが、そのとおりの気候となった。先ずは、朝の寒さである。犬の朝一番の散歩は私が行くので、昨日とはちがう春の寒さを味わうことができた。 春は寒暖をくり返しなが...
もしかしたら、2月3日の昼食後の、あのときの激しい嘔吐がオミクロンの症状ではなかったかと今になって思う。この日はワクチン接種の3回目で、午後には予約していた病院へ行くことになっていた。あわてて熱を測り、何度も測ってみた...
ここ数日、満月に近い月が夜空を照らしていたが、2月17日の今宵が満月である。アメリカの先住民が名付けた呼び名で、スノームーンというそうだ。ちなみに、1月はウルフムーン、3月はワームムーン、4月はピンクムーン・・とつづく...
今日のオリンピックは、テレビで女子のスケートを観た。「パシュート」という競技は、正直のところ今回の北京オリンピックで初めて知った種目であるが、興味を持って予選から決勝と観た。横で夫が説明をしてくれるのが少々煩さかったが...
北京オリンピックに夢中になっている。いつもは、羽生結弦のフィギュアスケートが無事に終れば満足しているのだが、今回は違った。ジャンプの小林陵侑、スケートの高木美帆、スケートボードの平野歩夢選手たちの、それぞれのメダル授与...
今朝、小学校以来の長い友人和子さんから、京都の雪景色の動画がラインに送られてきた。全盲のピアニスト辻井伸行の弾く「ノクターン」の演奏をバックに、動画の雪景色の嵯峨野の竹林は、雪の重さも加わって、より深々と感じられた。 ...
私の住む茨城県守谷市から筑波山を右手に眺めながら北上してゆく街道の左側は麦畑がつづいている。黄金色に稔るので小麦だ。その向こうには白っぽい黄金色が広がっているが、それはビール麦だという。 お百姓さんが自ら踏んでいる「...
つくば市から学園東大通りを北上した天久保4丁目に、筑波大学キャンパスの入口が見えてくる。そして、学園東大通りの反対側の天久保4丁目には、つくば植物園の入口がある。筑波大学キャンパスとつくば植物園は、ちょうど学園東大通り...
第八〇八夜 平間真木子の「絵踏」の句 九州の長崎駅前の西坂公園に、日本二十六聖人殉教記念碑が建っている。最初に見たのは、大学卒業後すぐに、プロテスタントの活水学院高校で英語講師をすることになり長崎市に移り住んだ時であ...
ジャズムーブが起きたのは、アメリカでは1910年頃といわれる。日本では昭和38年(1963)後半の頃ではないかと思う。ジャズの話は、青山学院高等部時代の休み時間のお喋りの中で初めて出てきた話だったからだ。私は、目を丸く...
春が来た 春が来た 春が来た どこに来た。 山に来た 里に来た、 野にも来た。 花がさく 花がさく どこにさく。 山にさく 里にさく、 野にもさく。 鳥がなく 鳥がなく どこでなく。 山で鳴く 里で鳴...
平成9年2月2日、私の父が亡くなった。俳号は、名字の重石(しげいし)を、志解井司(しげい・つかさ)と表記していた。あらきみほ句集『ガレの壺』(平成9年11月10日刊行)には、父の死の作品を20句ほど収めた。命日が節分の...
編物が好きなのか、毛糸が好きなのか、高等部時代も大学時代も、秋から冬、春先まで、休み時間にはよく編物をしていた。大学の講義のない時間など、喫茶店で友だちと過ごしていたが、話しながら手を動かしていた。当時は縄編を入れたセ...
大学時代の森教授のアドグルの旅行で思い出すことがある。冬と春はいつも蔵王のスキー場に行っていた。リフトは当時はスキー場に2本だったと思う。リフトは1人づつの席でゆっくり昇っていった記憶がある。長い列となってリフトに乗る...
深見けん二先生の結社「花鳥来」の例会は吟行句会を旨としていた。自然に触れること、自分の目で見ること、写生の目を鍛え、客観描写の訓練の大切さを教えていただいた。毎回必ず参加できることは叶わなかったが、それでも、東京、埼玉...
長野県の諏訪湖畔にある「北澤美術館」は、青山学院高等部時代のクラスメイトの北澤さんのお父上であるキッツ創業者の北澤利夫氏が、昭和58年に創設した美術館である。開館は大学卒業後であったが、お手紙とともにチケットを何枚も同...
1986年1月28日、初の民間人宇宙飛行士のエリソン・オニヅカが、10回目のミッションの打ち上げ中に爆発したチャレンジャー・スペースシャトル・オービタ機の中で死亡した。搭乗していたクルー7名の飛行士ともども全員が死亡し...
霜柱 野口雨情 ザック ザック 踏んだ 踏んだ 踏んだ ザック 踏んだ ザック 霜柱 霜柱 雀に...
法隆寺 細見綾子 千年の一と時生きて吾余寒 法隆寺に行くと千年という言葉が不思議と実感を持つ。この年の一月に俳句の師であった松瀬青々が亡くなり追悼の集まりがここであった...
自信を持たう 高浜虚子 甲の人は甲の事をいゝと考へる。乙の人は乙の事をいゝと考へる。間に立つてゐる自信のない人は両方の説に迷はされる。あちらこちらとうろうろする。 甲乙各々いいところもあれば悪いところ...
間 高浜虚子 「間」といふ事は音楽で大切な事である。「間のいゝ謡」「間の悪い謡」といふ事は能役者の間で富に言はれてゐる。先年亡くなつた長唄の稀音楽浄観氏も、 「間が一番ですよ、間...
3章 杉田久女の病名を探る 今、私の手元に病跡学の資料がある。精神科医柏瀬宏隆著『鬱力(うつりょく)』(集英社刊)の編集に関わった経緯から、資料とした「日本病跡学雑誌」の論文のコピーの山にあったのは、精神神経科医...
第七百九十四夜 黛まどかの「久女忌」の句 2 2章 久女のホトトギス除名を探る 杉田久女は、昭和11年10月号の「ホトトギス」誌上において、日野草城、吉岡禅寺洞とともに同人を突然に除籍された。 この決定は前もっ...
今日、1月21日は杉田久女の忌日である。深見けん二先生を信奉し富安風生の弟子であった、笹目翠風主宰の「礦(あらがね)」誌での二回目の連載のテーマとして「虚子と散文」の世界を試みた。その第3章に「国子の手紙」を読む、があ...
華岡青洲の妻 有吉佐和子 青洲は枕元にあった薬湯を口に含むと、加恵の唇にそれを当て、口移しに解毒剤を飲ませた。少量の甘草で味つけした黒豆の煮汁を、加恵は夢の中で吸うようにして飲み、幾度も幾度...
双葉山の連勝ストップ 澁澤龍彦 現実の国技館では双葉山が連勝をつづけているが、紙相撲の世界では、必ずしもそうではない。そこがおもしろいので、私たちはいつしか現実と紙相撲のとを混同しはじめるので...
明るい心をもつ 佐伯泉澄 心暗きときは、即ち遇う所悉く禍(か)なり。 眼明(まなこあきら)かなるときは、即ち途に触れて皆宝なり。 (性霊集巻8・72、全集3・49...
「淑気」といえば、俳句をする者にとっては、新年になって初めての、1月の中頃に行われる初句会の雰囲気が浮かんでくる。お正月の気分があるから、皆、少しお洒落して参加している。句会へ参加する人はだれもが「今日こそは!」とわく...
1月15日の今日は、「小正月」又は「女正月」。女正月は(おんなしょうがつ)とも(めしょうがつ)ともいう。 1月1日の正月を大正月といい男正月ともいい、1月15日を小正月、女正月という。 正月を迎える準備を整えることは...
2018年の11月の初めのこと。車から降りる夫を支えようとした瞬間、酔っていた夫は転び、私も転がってしまった。酔っていた夫は何事もなくケロッとしていたが、私の方は大腿骨頸部骨折で入院となった。手術した病院に1と月、リハ...
茨城県取手市に住んでいたのは、古いマンションであった。裏は崖になっていて、クヌギやスギやコナラが植えられていた。玄関から3階の通路に出ると、崖の木々には、夏になると幹に空蟬(ウツセミ)が張り付いていたり、冬には「凍蝶」...
今日は1月12日。つくば山を右手に眺めながら車で北上した。よく晴れた空は目に沁みるように青かった。これが冬青空なのだと、一時期「花鳥来」にも在籍していた「夏草」の上野好子さんの「冬青空さえぎるもののなき別れ」の作品を思...
2022年の寒の入りは1月5日で、この日が小寒にあたり、 2022年の寒中は、1月6日~2月3日までとなるという。小寒と大寒をあわせた期間は、「寒」「寒中」「寒の内」などと呼ばれ、小寒の初日は「寒の入り(かんのいり)」と...
成人の日は、1948年公布・施行の祝日法によって制定された。制定から1999年までは毎年1月15日だった。成人の日を1月15日としたのは、この日が小正月であり、かつて元服の儀が小正月に行われていたことによるといわれてい...
4年間住んでいた長崎市から夫とともに東京へ戻って、もう50年は過ぎた。若かった私たちは、赤いホンダのクーペに乗って長崎市から小1時間ほど走って野母崎半島を先端まで南下して、野母崎高校で英語教師をしていた友人の遠山さんを...
今朝は、5時前にはぱっちり目覚めてしまった。カーテンを開けると外はまだ暗い。夜明けは何時頃になるのだろう。ネットで調べてみると、今日の夜明けは6時23分、日の出は6時51分とあった。 そう言えば地平線あたりには仄かに...
昼食を終えて、テレビの前でうとうとしていると、 「おい! 雪が降っているぞ!」と、夫。 30メートル先の雑木林の枝々が雪をかぶっていた。 なんと美しいこと! さっそく飛び出した娘が、 雪景色の写真を撮って見せ...
単純化、具象化 比較的単純化の出来ている句は面白く、単純化の出来てゐない句はつまらなかつた。 又具象化の出来てゐる句は面白く、具象化の出来てゐない句はつまらなかつた。 俳句は簡単なのが武器である。長所である...
元日には、皆様に新年のご挨拶も申し上げずにいきなり「千夜千句」を書き始めてしまった。改めて、 明けましておめでとうございます。 令和4年1月1日、第七百六十五夜からスタートした「千夜千句」は、無事にゆけば目標と...
1月3日。「箱根駅伝」の2日目の今日は、昨日の往路が優勝していたこともあって、8時前からテレビに向かっていた。いつもは時々覗き、結果が決まる頃からテレビの前に座るという視聴者であった。大学時代の友人からの「ぶっちぎりで...
今日は、2022年(令和4)1月2日、「箱根駅伝」1日目である。嬉しいことに、往路優勝は青山学院大であった。令和2年1月2日の「千夜千句」の第五十五夜で、梅田美智さんの「箱根駅伝」の俳句を英語の「haiku」とともに紹...
2022年1月1日、元旦である。昨日の大晦日は、「年守る」の季語を実践しようという決意ほどでもないが、今日の新年の支度をことこと仕上げていた。紅白歌合戦を観ていたのでもなく、例年ように除夜の花火見物に牛久大仏まで出かけ...
梟の大旅行 林芙美子 「おい、梟君、君はいったい、何が愉しみで生きているンだね?」 と、楡(にれ)の木がききました。 梟はきょとんとした表情で、 「わたしかね?」 と首をかしげて、猫の眼のよ...
風立ちぬ 堀 辰雄 私は数年前、屢々、こういう冬の淋しい山岳地方で、可愛らしい娘と二人きりで、世間から全く隔って、お互いがせつなく思うほどに愛し合いながら暮らすことを好んで夢みていた頃のことを思い...
夫との別れ 加藤登紀子 「もう、いいだろう」 すべてが終わった瞬間だった。 数値がドンドンさがる様子は、まるで飛ぶのを止めた鳥のよう。そうだ、もうこれ以上闘う必要なんてあ...
来むといふも来ぬあるを 来じといふを 来むとは待たじ 来じといふものを 大伴坂上郎女 四ー五二七 【訳】来るといってもこないときがあるのに、来ないと言っているのに来る...
クリスマス ニューヨーク・サン紙社説 サンタクロースがいない、ですって! サンタクロースが信じられないというのは、妖精が信じられないのとおなじです。 ためしに、クリスマス・イブに、パパにたのん...
シュールカとニュールカ ソログープ シュールカは雪娘に近づくと、その青ざめた美しい唇にまとものキスをしました。 クリスマス尾前日で、聖なる神秘の夜だったからでしょうか、子どもたちが自分たちの...
良い句を書き写す 深見けん二 写生をする時に、ある焦点が定まって心に感動が起きても、それを表現する言葉、その感動を表すのに、最も適した言葉が見つからなければ、俳句にならない。その表現法を身につけるのに、...
今宵は、宮坂静生著『子規秀句考-鑑賞と批評』より「湯婆」「時雨」の作品を見てゆこう。 ■ 碧梧桐のわれをいたはる湯婆かな 正岡子規 (へきごとうのわれをいたわる たんぽかな) 明治28年、正岡子規は、...
しっと 曾宮一念 一瞬にして純情も邪悪に 眼の清澄が消え、皮膚の艶が褪せる 心肝は焦げ脾胃は腐虫の巣となる 静観なく把握なく洞察なく創造なく 犬や猫のそれは可憐なのに ...
雪後 梶井基次郎 「ぼくはおまえを愛している」 ふと少女はそんな囁きを風のなかに聞いた。胸がドキドキした。しかし速力が緩み、風の唸りが消え、なだらかに橇が止まる頃には、それが空耳だった...
切字の切れ味 高浜虚子 「や」「かな」といふのは、例へば「秋風や」とか「紅葉かな」とか、俳句にのみ特別にある切字をいふのである。従つて「や」「かな」と言へば直ぐ俳句を意味する。俳句の切字はたくさ...
能面 野口米次郎 「あなたが橋掛りで慎ましやかな白い拍節(ビーツ)を踏むと、 あなたの体は精細な五官以上の官能で震へると思ふ・・ それは涙と笑の心置きない抱合から滲みでるもの、 祈祷で浄化された現実の一表...
伝統俳句(再び) 高浜虚子 昔、子規の枕頭で俳句の命数といふ事が問題になつた事がある。早晩尽きるといふ事には誰の意見も一致した。十七字と限られた以上、バーミュテーション(順列)とか、コンビネ...
リア王 シェークスピア エドガー (傍白)条理と不条理とが混淆(ごっちゃ)になってゐる! 狂気の中にも理性が働く。(狂人語(きちがいことば)の中にも道理がある。 エドガーもグロースターも...
今日は、旧暦元禄15年12月14日夜に起こった旧赤穂藩士の吉良邸討入のあった日。前年3月、江戸城内の松の廊下で浅野内匠頭長矩が吉良義央に切りつけた刃傷沙汰の際、浅野は切腹、吉良はお咎めなしに対する不満から、赤穂浪士四十...
闇鍋 内藤鳴雪 或日の事子規氏が来た、闇汁会を開くからといって来たので、私も行ったが、闇汁とは、出席者が各々或る食物を買って来て、互いに知らさずと厨の大鍋に投げ込む、それが煮え立った頃席上へ持...
もみの木 アンデルセン 「ああ、どうかして、そんなはなばなしい運がめぐってこないかなあ。」と、もみの木は、とんきょうな声をあげました。「はやく、クリスマスがくればいいなあ。わたしはもう、去年、つ...
ノーベルの遺言 石田寅夫 ノーベル賞は、ダイナマイトを発明して巨万の富を築いたスウェーデンのアフルレッド・バルンハート・ノーベルが、妻子なく、親兄弟とも死別し、一人さみしく六十三年の生涯を閉じる際に...